恋愛に無関心の院長が恋に落ちるわけがない
「豚肉のしょうが焼きだ、好きだ」

 待ちきれないって笑顔の院長が、テーブルを見渡すから、すぐに二人でいただきますをして食べ始めた。

「いい匂いだ、料理の手際もいいんだな」 

 大きく香りを吸い込んだ顔が幸せそうで、微笑みながら眺めていたら、目と目が合った。

「しょうが焼きは、シンプルな味つけが一番おいしい」
 お弁当もだったし口にするもの、おいしいおいしいって食べてくれるから嬉しい。

「オムレツの中に、しらすが入っているのか、おいしい」 
 すまし汁もサラダも幸せそうに、次々に口に運んで満足そう。

「早く食べないと、すべて俺が食べてしまいそうだ、ほら、早く」
「お弁当のときも、おっしゃいましたよね」

 小さなころ、私が食べている姿を満点の笑顔でずっと見ていた、お父さんとママの気持ちがわかった。

 愛しい人が幸せそうに食べていると、私まで幸せで、それだけでお腹が満たされる。だから、ずっと見ていたい。

 微笑みながら、じっと見ていたらお椀を上げて、すまし汁を飲む目と目が合った。

 また早くって言われそうだから、食べ始めた。安心したみたいで、また料理に目を落として、おいしそうに口に運んでいる。

「おかわりある?」
「はい」
 お茶碗を手渡されると、お椀も渡された。
「すまし汁も」
「はい」
 すぐに立ち上がり、よそってきた。

「ありがとう、おいしくて箸が止まらない」
 笑ってしまう。

 私に二度手間をかけたくないんでしょ、慌てて、すまし汁を飲み干すんだもん。

「俺の顔を見てから作り始めて、温かい料理を出してくれてありがとう、とてもおいしい」

「喜んでいただけて嬉しいです」
 当たり前だと思ってしていたことが、喜んでもらえるんだ。

 付き合うと、たくさん喜びが増えるんだね。

 幸せそうな顔を見て、私も幸せになる。だから幸せは倍になるんだね。私が笑えば院長も笑う。

 例のごとく、私たちの食事は瞬く間に終わる。

 ふだん、いつ動物の救急や容体急変があるかわからないから、食べられるときに早く食べる習慣が身についている。

 きれいに完食したテーブルの上を見て、目と目が合った二人は鏡みたいにおなじ動きで、満足な顔まで鏡に映ったみたいにそっくりで、どちらからともなく声を上げて笑った。

「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
「ありがとう、とてもおいしかった」
「また、いっしょに食べてくださいね」
 二人で食器を重ねながら、お願いした。

「いつも、ひとりでの食事が寂しいのか」

 お願いしたことに違和感を感じたらしくて、院長が心配そうに聞いてくる。 

「誰よりも、院長といっしょに食べられることが嬉しいんです」
 重ねた食器を持ち、立ち上がりながら答えた。

 シンクに食器を置いて、振り返る笑顔も瞳もきらきらと輝いているのが自分でもわかる。

 院長を見るときの私の瞳は、眩しくきらめく宝石でも見たように輝き、光を放つ。

 そうでしょ?
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