恋愛に無関心の院長が恋に落ちるわけがない
 今まで白衣やスクラブを引き立てて、身を潜めていた、厚く張った胸板や盛り上がった肩が、主役とばかりに美しい肌と共に露になった。

「包帯のときとは違う、現実?」
 喉が詰まるし、声は上ずる。

「夢みたいだ、今夜、ようやく川瀬を永遠に抱き締めていられる」
 上体が、そっとまた私を包み込む。

「体も唇も肌も鼓動も、すべて俺に反応して感じてる、心もだ」
 熱を持つ柔らかな唇が、首筋を下から上に這う。

「脈拍もだ」
 今まで固まっていた全身も頭の中も、力が抜けてベッドに沈んだ。

「川瀬のすべてがほしい、いつも、いつまでも」
 院長が心と体中で、大好きな気持ちを表してくれる。

「こんなに、人を好きになったことはない」

 喜びが溢れて、抑えきれないみたいな笑顔で、院長が見つめているから、嬉しさと恥ずかしさの入り交じった、切ない表情を崩せない。

「そんな顔で見つめられたら、どうにかなりそうだ」 

 壊れそうなくらいに抱き締められて、めちゃくちゃになりそう。 

「ごめん、つい夢中になってしまった、重くないか」
 小さく頷いた。

「愛の強さと抱き締める力は比例する」

 耳もとで囁くかすれた声が、吐息とともに私の体中を熱く駆け巡った。

「徹夜と長時間のオペ。とかく獣医は、体力勝負だ。それに必要不可欠な体力、忍耐力、持久力が、俺には人並み以上に備わっている」

 耳もとで囁く、自信に満ち溢れた院長の深く大きな愛に包まれ、私はおとなになった。

「このままずっと、院長のぬくもりがほしいです、心の中も体の中も」

「そんな可愛いことを言われたら、もう離せなくなる、自分を見失いそうだ」

 心地いい疲れに、心も体も満たされてる私を、院長がシーツの波から、愛しそうに抱き寄せる。 

 ──私の初めてが院長でよかった──

「川瀬が果てるとき、俺を抱き締める力が驚くほど強い。この体のどこに、あんな力があるんだ」
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