恋愛に無関心の院長が恋に落ちるわけがない
 私の体は、まるでパズルのパーツのひとつのように、院長の体にしっくりと収まり、抱き締められた。

 ちょっとちょっと、まったく身動きとれないし。

「『院長、大好き』ってセリフをおかわり」
「聞いてたんですか」
「バディのときのように、また俺の顔をおもちゃにしたから、目が覚めた」

 広く厚い胸の隙間から、辛うじて仰ぎ見ると、幸せそうに微笑む、とろんとした瞳と目が合った。

「『院長、大好き』を、また聞かせてくれ」
「院長、大好き」
 とろけそうな瞳が、見つめたまま離してくれなくて恥ずかしくなる。

「もう、おはようの時間ですよ」
「今日は休診日だ、ゆっくりさせてくれ」

 私を左腕に抱きながら、右腕と全身を伸ばしたから、まるで小舟に乗っているみたいに、私の体が波打った。

「まさか、噛み癖があるヴァンスを入院させたのも、こうして朝を迎えたかったから」

「とんでもない迷探偵だ。いくらなんでも、そこまで鬼畜じゃない」
 ぎょっとした顔で笑っている。

「ユニークな発想だ」
「そうですよね、やりすぎ策士ですよね」
「川瀬は自覚なしの策士だ」
「私ですか」

「この絹のようなサラサラの髪の毛が、肩や胸をさやさやと撫でる、罪作りだ」

 確かめるように私の髪を撫でながら、きれいな歯のあいだから、舌の先が僅かに見える。

「川瀬の存在が、こんなにも心と体を乱す」

 切なく求める柔らかな唇が夢中になって、まるで私の唇を探すみたいについばむ。

「眠そうな目をして、シーツと俺と、どちらが恋しい?」

 美しい口もとが、キリッと上がって白い歯が見える。
 院長のキスに目がうっとりしたのに、眠そうな目だって。

「答えろ」
「俺」
 甘えた声で囁くと、とろけそうなほど甘い笑顔を向けてくる。

「起きたくなくなる」
「俺が恋しい」
「俺が恋しいだって? 可愛いな」

 そう言うや否や、強く抱き締められてオペのときの丁寧で繊細な、しなやかな指先と同じ動きが、私を隠すベールを一枚ずつ焦らすように脱がせる。

 共鳴し合っているのが恥ずかしくなって、シーツをたぐり寄せて顔を隠した。

「俺の心をかき乱す顔を、じっくり見せてみろ」

 笑い声の交じった声が、いとも簡単にシーツをおろし、唇を味わうようにキスを降り注いでくる。

「シーツで顔は隠せても、そのうっとりと甘く潤んだ瞳は隠せていない」

 優しく包み込む院長に求められて、何度も何度でも花びらのようにシーツに、体がふわふわ舞い散るから、恥ずかしくて「嫌」って囁いた。

「嘘をつくなら、ちゃんと体と口裏合わせをしておけ」

 余裕のある微笑みを浮かべた、院長の腕の中に包まれ、沸き上がる喜びに身を任せた。
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