恋愛に無関心の院長が恋に落ちるわけがない
「そこから先は自分自身の力で考えろ。自分で見つけ出せ」
自信がなくて、まごまごして怖じ気づく背中をポンと押してくれた。
「やり方が無理だから。院長の言い方がきついから。もう辞めたいから。今日は暑いから。今日は疲れたから。いいからやれ、あとで俺に感謝するようになる」
私の性格を完全に見抜いている海知先生の方が一枚上手。
話が落ち着いたら、海知先生が勢いよく食べ始めた。
最初は、お腹がすいていたけれど食べられる雰囲気じゃなかったんだって。
そのうち、話に夢中になって食べたいことを忘れちゃったって。
一生懸命に前向きにしてくれて、ありがとうございます。
なんでもかんでも答えを言わないで、突き放して考えさせて自分で気づかせる。
海知先生は言わないけれど、いつもそうして導いてくれる。
私にはできるって信頼しているんでしょ?
だから敢えて事細かな助言もしないし、安易に手を差し伸べることもしないんでしょ?
自分で考えて答えを出せば納得する。
言われたままに動いていると、やらされ感が出てきたり自信を失うって、新人のころに教えてくれた。
笑う目が優しいから、心の晴れた顔で微笑み返す。
「お前の動物看護師としての能力を、俺は誰よりも認めてる。それに動物を強く想う純粋で繊細な心も嫌いじゃない」
小川院長に認められ、数多く在籍する獣医師からも一目置かれている海知先生の言葉が、私の弱まる自負心を強くしてくれる。
「川瀬の弱点は知ってる。でも、そもそも完璧な人間なんていないからさ、そんなに落ち込むなよ」
死角なしの完璧な海知先生に励まされると説得力がある。
「川瀬は動物看護師になって何年だ? わからないことばかりなのは当然だろ。院長なら、なおさら理解してるはず」
「大丈夫ですかね、私」
「JUST DO IT.とにかくやってみろ。人生は辛いこともたくさんある。それでも埃を払い、立ち上がれ。いつでも俺がいる」
そう言って、にっこり笑うと話題を一区切りして、テーブルの上を眺めている。
「ひとりで考えごとをしながら食ったって味なんかしないよ。今日は二人で食って飲むぞ」
大きな口を開けて天真爛漫に笑う姿に、何度もお礼を言った。
海知先生は雨あがりの虹。
私の心は雲一つない空みたいに晴れ渡った。
***
帰宅後、ひとりになってからは、また頭の中も心の中もルカのことばかりになってきた。
ルカのことで、腎不全の末期から終末期にかけての動物看護師の役目を改めて考えて、勉強せずにはいられなくて、気が済むまで机を離れない。
どのくらい時間が経ったのかな。眠ってしまったみたい。
目覚めてから保科に到着してもルカ、ルカと心がルカの名前を呼ぶ。
海知先生に言われたのに性分なのかな。どうしても考え込んでしまう。
『人生は辛いことが多い。だけど埃を払い、立ち上がれ』って海知先生の励ましを胸に、気持ちを切り替えて頑張っていこう。
自信がなくて、まごまごして怖じ気づく背中をポンと押してくれた。
「やり方が無理だから。院長の言い方がきついから。もう辞めたいから。今日は暑いから。今日は疲れたから。いいからやれ、あとで俺に感謝するようになる」
私の性格を完全に見抜いている海知先生の方が一枚上手。
話が落ち着いたら、海知先生が勢いよく食べ始めた。
最初は、お腹がすいていたけれど食べられる雰囲気じゃなかったんだって。
そのうち、話に夢中になって食べたいことを忘れちゃったって。
一生懸命に前向きにしてくれて、ありがとうございます。
なんでもかんでも答えを言わないで、突き放して考えさせて自分で気づかせる。
海知先生は言わないけれど、いつもそうして導いてくれる。
私にはできるって信頼しているんでしょ?
だから敢えて事細かな助言もしないし、安易に手を差し伸べることもしないんでしょ?
自分で考えて答えを出せば納得する。
言われたままに動いていると、やらされ感が出てきたり自信を失うって、新人のころに教えてくれた。
笑う目が優しいから、心の晴れた顔で微笑み返す。
「お前の動物看護師としての能力を、俺は誰よりも認めてる。それに動物を強く想う純粋で繊細な心も嫌いじゃない」
小川院長に認められ、数多く在籍する獣医師からも一目置かれている海知先生の言葉が、私の弱まる自負心を強くしてくれる。
「川瀬の弱点は知ってる。でも、そもそも完璧な人間なんていないからさ、そんなに落ち込むなよ」
死角なしの完璧な海知先生に励まされると説得力がある。
「川瀬は動物看護師になって何年だ? わからないことばかりなのは当然だろ。院長なら、なおさら理解してるはず」
「大丈夫ですかね、私」
「JUST DO IT.とにかくやってみろ。人生は辛いこともたくさんある。それでも埃を払い、立ち上がれ。いつでも俺がいる」
そう言って、にっこり笑うと話題を一区切りして、テーブルの上を眺めている。
「ひとりで考えごとをしながら食ったって味なんかしないよ。今日は二人で食って飲むぞ」
大きな口を開けて天真爛漫に笑う姿に、何度もお礼を言った。
海知先生は雨あがりの虹。
私の心は雲一つない空みたいに晴れ渡った。
***
帰宅後、ひとりになってからは、また頭の中も心の中もルカのことばかりになってきた。
ルカのことで、腎不全の末期から終末期にかけての動物看護師の役目を改めて考えて、勉強せずにはいられなくて、気が済むまで机を離れない。
どのくらい時間が経ったのかな。眠ってしまったみたい。
目覚めてから保科に到着してもルカ、ルカと心がルカの名前を呼ぶ。
海知先生に言われたのに性分なのかな。どうしても考え込んでしまう。
『人生は辛いことが多い。だけど埃を払い、立ち上がれ』って海知先生の励ましを胸に、気持ちを切り替えて頑張っていこう。