恋愛に無関心の院長が恋に落ちるわけがない
玄関のドアを開けた瞬間から、子どものように泣き声を上げ、自分に戻れた空間で声と涙の限りを尽くして泣き出した。
ここなら我慢しなくてもいいんだ。
シャワーの雨を浴びて、泣き顔も泣き声もかき消され、夕食は無理やりにでも口に入れた。
結局、食べ終わりは九時過ぎになった。
ルカの旅立ちに涙も枯れ果て、泣き疲れて哀しみの底に沈む私に呼びかけるように携帯が鳴った。ママだ。
「ママ、こんにちは。どうしたの?」
涙や哀しみを隠すように元気な声で話しかけた。
「どうしたのって。毬の声が聞きたいから。ただそれだけ」
今の状況で、そういう言葉は涙腺を刺激するの、ママ。
「たまにはテレビ電話でママに顔を見せて」
「今日はパックしてるから、また今度にして。しわくちゃになっちゃう」
「もうパックしてるの、まだ早い。ママだってしてないのに」
見え透いた嘘を、からっとした笑い声で流してくれるのはママの思いやり?
喉とこめかみが痛い。
優しいママに心配をかけたくない。泣いていたことを悟られたらダメ。
「お昼ごろまで曇っていたけど、今は晴れてとってもきれいよ。ドナウの真珠と呼ばれる、ハンガリーの美しい首都ブダペストを毬にも見せてあげたいわ」
ママは三年前に海を渡り、王立ハンガリー医学大学で日本人学生のサポートスタッフとして事務局で働いている。
大学が休みの日には、いつもテレビ電話で景色を見せてくれるから、離れて暮らしていても寂しさが少しだけ減る。
生い茂る鮮やかな黄緑色の木々を眺めながら、今さっきまでランチをしていたんだって。
のんびりとした休日を過ごして、ひとり暮らしを満喫しているみたい。
「さっきね、慢性腎不全の老齢猫のルカがね」
涙をこらえて、大きく喉を鳴らした。
「旅立っちゃった」
平気を装い、語尾に少しだけ小さな笑い声を交えて言い切った。
「肺炎をおこして容体急変で、あっという間だったから、心の準備もできなかったの。びっくりしちゃった」
他人事みたいに話し続けた。話し続けていないと泣き出しそうだから。
「ルカのことは、ずっとずっと長いあいだ看てきたから思い入れがあってね。うん」
自分に言い聞かせるように頷いた。
ここなら我慢しなくてもいいんだ。
シャワーの雨を浴びて、泣き顔も泣き声もかき消され、夕食は無理やりにでも口に入れた。
結局、食べ終わりは九時過ぎになった。
ルカの旅立ちに涙も枯れ果て、泣き疲れて哀しみの底に沈む私に呼びかけるように携帯が鳴った。ママだ。
「ママ、こんにちは。どうしたの?」
涙や哀しみを隠すように元気な声で話しかけた。
「どうしたのって。毬の声が聞きたいから。ただそれだけ」
今の状況で、そういう言葉は涙腺を刺激するの、ママ。
「たまにはテレビ電話でママに顔を見せて」
「今日はパックしてるから、また今度にして。しわくちゃになっちゃう」
「もうパックしてるの、まだ早い。ママだってしてないのに」
見え透いた嘘を、からっとした笑い声で流してくれるのはママの思いやり?
喉とこめかみが痛い。
優しいママに心配をかけたくない。泣いていたことを悟られたらダメ。
「お昼ごろまで曇っていたけど、今は晴れてとってもきれいよ。ドナウの真珠と呼ばれる、ハンガリーの美しい首都ブダペストを毬にも見せてあげたいわ」
ママは三年前に海を渡り、王立ハンガリー医学大学で日本人学生のサポートスタッフとして事務局で働いている。
大学が休みの日には、いつもテレビ電話で景色を見せてくれるから、離れて暮らしていても寂しさが少しだけ減る。
生い茂る鮮やかな黄緑色の木々を眺めながら、今さっきまでランチをしていたんだって。
のんびりとした休日を過ごして、ひとり暮らしを満喫しているみたい。
「さっきね、慢性腎不全の老齢猫のルカがね」
涙をこらえて、大きく喉を鳴らした。
「旅立っちゃった」
平気を装い、語尾に少しだけ小さな笑い声を交えて言い切った。
「肺炎をおこして容体急変で、あっという間だったから、心の準備もできなかったの。びっくりしちゃった」
他人事みたいに話し続けた。話し続けていないと泣き出しそうだから。
「ルカのことは、ずっとずっと長いあいだ看てきたから思い入れがあってね。うん」
自分に言い聞かせるように頷いた。