恋愛に無関心の院長が恋に落ちるわけがない
「先生の話を聞いてたら、プレゼントするお相手には、ブルースターが似合うと思ったの」
 奥さんの口から出る言葉は、しみじみとしている。

「あなたにもブルースターの花言葉、教えてあげる」
 あなたにもって。

「ブルースターの花言葉は、幸福な愛と信じあう心」
「院長も意味を知ってるんですか」
「教えてあげたわ」

「知った上でブーケに入れてくださいって?」
 優しさが滲み出る笑いじわが、目尻に浮かび上がった奥さんが、こくりと頷く。

「花をプレゼントする人って、プレゼントするお相手のことを心から想いながら、あれこれ選んでるのよ」

 周りの華やかな花たちに囲まれ、よけいに気持ちが高揚してしまう。

「私も大切にします」
「そうよ。花も、そしてプレゼントしてくれたお相手の気持ちもね」
 なんだか急に恥ずかしくなった。

「ブーケには、口には出せない送り主の伝えたい想いが込められてるのよ」

「ブーケをプレゼントしてもらえることが、こんなに嬉しくて幸せなことだなんて、院長と奥さんに教えていただきました」

「私は手助けをしただけ。幸せの橋渡しよ。あとは、ご当人同士次第ね」
 ニコッと笑った奥さんに、肩を軽くポンッとされた。

「ブルースターのブーケを先生からプレゼントされたのは、あなたよね」
「は、はい」 

 確信している奥さんに圧倒されて、恐るおそるスローモーションで、首を縦に振った。

「どんな方にブーケを送りたいのか、お相手のイメージを思い浮かべたいから、先生と話したけど、あなたはイメージ通りの女の子よ」

 そ、そんなわけないってば。

 どぎまぎしちゃって、顔は火照るし、恥ずかしくて身の置き所がない。

「ほら、その表情やしぐさ。先生が話してた通りなのよ」
 奥さんが控えめな声を漏らしながら笑う。

 院長がプレゼントしてくれたブーケに深い意味はないったら。

 でも奥さんが自信満々に断言するから、そうかもと思えてきて、気恥ずかしくなってきた。院長が本当に?

「先生は日ごろから、あなたをよく見てるわね」
 奥さんが確信して深く頷くから、もっともっと恥ずかしくなっちゃう。

「つい、目で追っちゃうのよね」

 独り言を言いながら、手早く作業をしている、奥さんの微笑みが日射しに照らされて、さらに優しく柔らかな表情になる。

「これは私からのプレゼント」
 オレンジとピンクのチューリップを、それぞれ一輪ずつ入れたブーケを手渡してくれた。

「ありがとうございます。とっても嬉しいです」
 抑えきれない笑顔を浮かべて、目先までブーケを持ち上げて、くるりと回しながら眺めた。

「喜んでくれて嬉しい。そうだ、チューリップの花言葉も教えてあげる。まずはオレンジね」
「お願いします」

「照れ屋」
 二人して目と目が合って、思わず笑い合った。奥さんも私とおなじ人を思い浮かべたみたい。

「こっちのピンクはね」
「はい」
「なんとかの芽生え」
「ん?」
「内緒、ここまで。さあ、今日もお仕事頑張って」
 肩をくるりと回され、背中をポンッと軽く押された。

「ありがとうございます」
「また、いらっしゃい」
「はい、ありがとうございます」
 にぎやかに一日が始まった。
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