恋愛に無関心の院長が恋に落ちるわけがない
オレンジのチューリップの花言葉って照れ屋なんだね。
さっそく保科に到着したら、花瓶に生けよう。弾む心と足もとが、足早に道を駆け抜ける。
「おはようございます」
「おはよう」
さわやかな香さんの声と満面の笑顔の隣で、顔も上げない院長の素っ気ない挨拶に迎えられた。
私の挨拶は、院長にとってはBGMなの?
本当にブーケをくれた人と同一人物なの? 今の花屋さんの出来事が嘘みたい。
「可愛いチューリップね、どうしたの?」
香さんがチューリップに目を奪われ、にこにこしている。
「プレゼントされました」
院長は気にならないの?
「どなたに?」
ちらっと院長を見たら、鼻柱も動かず興味ないって横顔が語る。
「どなたに?」
「花屋さんです」
「花屋さん、いつもサービスしてくれるし、なにかまたお渡ししましょ」
香さんが独り言を呟いた。
「ちょっと失礼します」
ささっと花瓶に生けた。
照れ屋と、なんとかの芽生えか。内緒のなんとかってなんだろう。
「ありがとう」
棚に花瓶を飾って顔を上げると、つっけんどんにタオルをすすっと差し出してきた。
「いいえ、とんでもないです」
できることなら、こっちは昨日のことは忘れてほしいの。
「そういう返し方はないでしょう。それよりも、そのタオル」
香さんの声が弱々しくて、なんだろうかとタオル一点に視線が集中した。
このタオルが、どうかしたの? 香さんの顔が呆れている。
「ごわごわ、ばりばり、かわいそうなタオル」
じっとタオルを見る目は哀れんでいる。
「こんなにくたびれて。柔軟剤は使わなかったの?」
香さんの声が、さらに弱々しくなって消えちゃいそう。
「使ったことがない。第一やり方も、わからない」
「自慢にならないわよ。洗濯機の棚に入れてあるでしょ、説明書を読めばできるでしょ。わからないことを解明するのが明彦でしょ」
「でしょでしょ、うるさい。必要性を感じない」
「あなたのはね。でも川瀬さんのタオルは、せっかく汗を拭いてくれたんだから、やることちゃんとしなさい」
どこ吹く風の院長を本気で叱っている香さんを、ほどほどで止めよう。
「香さん、大丈夫です。院長もわかりましたよね」
「これだから彼女ができないのよ」
「それで、けっこう」
「かわいそうなタオル。ごめんなさいね」
私を見つめる香さんが、視線を院長に移す。
「借りたように返さない無頓着な子で」
「いいんです、大丈夫です」
「さ、もう仕事の準備を始めましょう」
「はい」
呆れた香さんが、さっさと受付へ向かって歩いて行った。
「さて、患畜の世話に行こうっと」
「川瀬」
いたたまれないところに予想外の呼びかけに驚き、肩が上がった拍子に振り返った。
「ごめん。柔軟剤のやり方がわからない」
意外な言葉に驚いた。タオルで、そこまで気に病むことないのに。
「男の人は、あんまりやらないと思います。気にしないでください」
「ごめん。借りたように返さなくて」
「それより、院長の洗剤とってもいい香りがします」
ほのかな香りが、心地よく鼻腔をくすぐるから、タオルを鼻先にあてて、にっこり笑った。
「お忙しいのに、私のために時間を作って洗ってくださってありがとうございます」
「ありがとう、気遣いしてくれて」
「心からの素直な気持ちです。上に行きましょう」
「ああ」
さっそく保科に到着したら、花瓶に生けよう。弾む心と足もとが、足早に道を駆け抜ける。
「おはようございます」
「おはよう」
さわやかな香さんの声と満面の笑顔の隣で、顔も上げない院長の素っ気ない挨拶に迎えられた。
私の挨拶は、院長にとってはBGMなの?
本当にブーケをくれた人と同一人物なの? 今の花屋さんの出来事が嘘みたい。
「可愛いチューリップね、どうしたの?」
香さんがチューリップに目を奪われ、にこにこしている。
「プレゼントされました」
院長は気にならないの?
「どなたに?」
ちらっと院長を見たら、鼻柱も動かず興味ないって横顔が語る。
「どなたに?」
「花屋さんです」
「花屋さん、いつもサービスしてくれるし、なにかまたお渡ししましょ」
香さんが独り言を呟いた。
「ちょっと失礼します」
ささっと花瓶に生けた。
照れ屋と、なんとかの芽生えか。内緒のなんとかってなんだろう。
「ありがとう」
棚に花瓶を飾って顔を上げると、つっけんどんにタオルをすすっと差し出してきた。
「いいえ、とんでもないです」
できることなら、こっちは昨日のことは忘れてほしいの。
「そういう返し方はないでしょう。それよりも、そのタオル」
香さんの声が弱々しくて、なんだろうかとタオル一点に視線が集中した。
このタオルが、どうかしたの? 香さんの顔が呆れている。
「ごわごわ、ばりばり、かわいそうなタオル」
じっとタオルを見る目は哀れんでいる。
「こんなにくたびれて。柔軟剤は使わなかったの?」
香さんの声が、さらに弱々しくなって消えちゃいそう。
「使ったことがない。第一やり方も、わからない」
「自慢にならないわよ。洗濯機の棚に入れてあるでしょ、説明書を読めばできるでしょ。わからないことを解明するのが明彦でしょ」
「でしょでしょ、うるさい。必要性を感じない」
「あなたのはね。でも川瀬さんのタオルは、せっかく汗を拭いてくれたんだから、やることちゃんとしなさい」
どこ吹く風の院長を本気で叱っている香さんを、ほどほどで止めよう。
「香さん、大丈夫です。院長もわかりましたよね」
「これだから彼女ができないのよ」
「それで、けっこう」
「かわいそうなタオル。ごめんなさいね」
私を見つめる香さんが、視線を院長に移す。
「借りたように返さない無頓着な子で」
「いいんです、大丈夫です」
「さ、もう仕事の準備を始めましょう」
「はい」
呆れた香さんが、さっさと受付へ向かって歩いて行った。
「さて、患畜の世話に行こうっと」
「川瀬」
いたたまれないところに予想外の呼びかけに驚き、肩が上がった拍子に振り返った。
「ごめん。柔軟剤のやり方がわからない」
意外な言葉に驚いた。タオルで、そこまで気に病むことないのに。
「男の人は、あんまりやらないと思います。気にしないでください」
「ごめん。借りたように返さなくて」
「それより、院長の洗剤とってもいい香りがします」
ほのかな香りが、心地よく鼻腔をくすぐるから、タオルを鼻先にあてて、にっこり笑った。
「お忙しいのに、私のために時間を作って洗ってくださってありがとうございます」
「ありがとう、気遣いしてくれて」
「心からの素直な気持ちです。上に行きましょう」
「ああ」