総長さんが甘やかしてくる①(※イラストあり)
愁さんは、続けた。
「同級生が話してるバラエティ番組やアニメを見てみたかったが『バカバカしい』の一点張り。現実的なことばかりを教え込まれた。他人を安易に信じるなと言われた」
幼い頃から夢を抱くことを禁止されるなんて、どれだけ辛いだろう。
叶う、叶わないは別として。
夢みることさえ取り上げられるなんて、そんなの――。
「休み時間、図書室に幾度となく足を運びその場で何冊も本を読んだ。借りて帰れば、そんなもの読むなと取り上げられてしまうだけだからな。多くのフィクション作品に触れ、壮大な世界観のある物語に魅了された」
幼い愁さんが図書室で本に向かって目を輝かせている様子を思い浮かべる。
キラキラしたひとみの少年を。
「中学に上がると、より多くの本に触れる機会も増えた。なにげなく手にとったエッセイを読んだとき、俺の生活からは考えられない人生がそこにはあった。わかってはいたがショックだった。鳥籠の中にいるのだと改めて思い知らされて」
総長さんといるときの愁さんは、生き生きとしている。
でも、学生服を身にまとう愁さんの目には光が宿っていない。
「付き合えるのは許可された人間のみ。学校から帰ると会うのは使用人と家庭教師。母親は稽古や人付き合いに多忙であまり家にいなかった。偉そうな大人たちが集まる社交の場には、ランドセルを背負い始めた頃から連れて行かれた」
「…………」
「そんなんで髪染めるわけにもカラダに穴あけるわけにも。ましてや墨を入れるわけにもいかねーだろ? 親にエリートになれと叩き込まれている人間が」