総長さんが甘やかしてくる①(※イラストあり)
◆
裕福な家に生まれた。
大きな屋敷に広い庭。
家政婦つきの、なに不自由ない暮らし。
手入れされた庭で遊ぶのが好きだった。
多くの植物に囲まれ
庭園の池には鯉が泳いでいて
幼いわたしにとって、庭の散歩が冒険みたいなものだった。
ママをはやくに病気で亡くし、子供の頃はパパと二人で暮らしていた。
記憶は曖昧なものだ。
けれど、
あの頃のわたしは本当に幸せだったと思う。
春には庭の桜の木に花が咲き。
それを書斎からパパと眺めた。
夏には蝉を捕まえ、空に放ち。
秋は紅葉を。
冬は、滅多に降らないものの雪景色を楽しんだ。
そんな日々も――。
『まだお若いのに』
『奥さんも亡くされていたのでしょう?』
音を立てて崩れていったんだ。
小学校に上がる前にパパが不運な事故で亡くなった。
物心ついたときにはママがいなかったわたしは
死ぬ、ということがどういうことか瞬時に理解できた。
けっして認めたくなくても認めざるを得なかった。
もう、パパに、会えないのだと――。