総長さんが甘やかしてくる①(※イラストあり)


髪は、基本的に学校で使う工作ばさみを使用して切っていた。


失敗して登校したら、しばらく笑いものにされた。


入学式みたいな写真の残る日や、親戚で集まるといった特別なときを除いて、わたしは綺麗な格好をさせてはもらえなかった。


『夕烏ったら、美容院に行けって言っても自分でやりたがって』


いつか、おばさんがママ友らしき人に笑って言い訳をしているのを聞いたことがある。


中途半端に伸ばすよりも伸ばしきった方がラクなので、気づけばロングヘアーが定着した。


同級生の子たちが当たり前のように手に入れているオモチャや服やアクセサリーや雑誌はなんにも手に入らなかった。


けれど、得たものならある。


前髪を切るのが上達した。

家のことができるようになった。


モヤモヤと嫌な気持ちになったり

胸の奥が苦しくなるたびに


“わたしはこんなこと絶対にしない”


そんな感情が増していった。


優しいだけの世界にいたら、当たり前だと思っていたことに、当たり前じゃないと気づけた。


ひとに優しくなりたい。

優しくしてくれる人には感謝したい。


そう強く思うようになったんだ。

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