総長さんが甘やかしてくる①(※イラストあり)
「いいな?」
「……ハイ」
初出勤前にそんな約束交わしちゃうとテンションの維持に困るのですが、幻さん。
裏口から中に入って、扉をしめるとき
幻さんが優しい目でこっちを見ていた。
(……最後まで見送ってくれるんだ)
顔の前で小さく手を振ると、
ふっと頬を緩め手を振り返してくれた。
――カッ……こよすぎるっ……。
十分すぎるくらいのパワーチャージができた。
今日から、頑張るぞ!!
「おはようございます!」
事務所に置かれたエプロンと帽子をつけると厨房へ向かう。
予想していたけれど――、とても暑い。
「来やがったか」
こっちも見ずにつぶやく。
そんな嫌そうにしなくてもいいじゃないですか、一番弟子さん。
「すごい……! お店の内側ってこんな風になってるんですね。オーブンがある! あっ……ここに完成したパンを並べるんですね……そしてここが調理台」
「社会見学にきたガキかよ」
「いい香り……あれ、もう焼いてるんですか?」
「当たり前だ」
「もしかして、昨日わたしが来たときに作っておられたものですか」
「あ?」
「あのときも、なんていうか、焼き立てって感じのいい香りがしたので」
「嗅覚犬かよ」
!?
「今焼いてるのは今日から出す期間限定ものだ。昨日はあの時間帯に試作品を焼いていた」
(当たっちゃった!)
「口動かさずに手ぇ動かせ」
「何をすればいいですか!」
「洗い場」
「かしこまりました!」