総長さんが甘やかしてくる①(※イラストあり)
愁さんが眉間にシワを寄せる。
「どっかで聞いたような名だな」
「とても色気のあるお姉さんです」
「女子の知り合いは少ない。……気のせいか」
「スミレさんには、一番弟子さんがいて。このパン全部その人が作ったんですよ」
「へえ」
「最初同じ年くらいだと思ったんですけど、26歳でビックリしちゃいました」
「それは童顔すぎねえか」
一応タイミングよくツッコミを入れてくれてはいるものの、キレも抑揚もない。
本人に自覚あるかどうかわからないけど、さっきから台詞が棒読みだ。
これ以上愁さんに体力使わせない方がいいかも……。
「ちょっとだけ愁さんに雰囲気が似てます」
「男なのか?」
「はい」
「……そいつと二人で働いてたりは」
「厨房では、二人ですよ」
「えっと。スミレさんは、そこには」
「スミレさんは店番されているので厨房には来ないですね」
「……嫌なこと聞いちまった」
「え?」
「いや。まあ、仕事だし。問題ねーか。……そうであって欲しい」
愁さんの顔色がさっきより悪くなったように見えるのは気のせいですか。
「次の出勤は?」
「明日です」
「なら、朝にお迎えが来るわけか」
「はい。あ、あとで会いにくるって言ってました」
「……明日になれば会えるのに?」
「それまでにご飯を作ろうと思います! 愁さん、なにか食べたいものありますか?」
「…………」
「愁さん?」
「幻は、ほんとに君がかわいくて仕方ないんだな」