総長さんが甘やかしてくる①(※イラストあり)
一番合戦悟(いちばんがっせん さとる)は、かつてアマチュアボクシング界において全国一の成績をおさめた実力者だ。
体格に油断した者は泣きをみることになる。
“小さな巨人”
そう呼ばれていた男。
鍛え抜かれた肉体と抜群のセンスで
プロ入りも期待されていた。
「ああ、誤解しないで? 幻とサトルにバトってもらうためにセッティングしたんじゃないよー。ただボクは、夕烏ちゃんとサトルなら上手くやっていける気がしたし、なによりスミレさんとサトルほどのボディガードがいる職場。他にないでしょ?」
燐の意見は、もっともだった。
俺が燐だとしても同じ選択をしていただろう。
「燐」
「なあにー?」
「夕烏と出会ったとき、男に絡まれていたようなことを言っていたな」
「うん」
「夕烏は、どうして渋谷にいたんだ」
「ユウちゃんからは、なんにも聞いてないの?」
「お前は知ってるんだろう」
「だとしても。ユウちゃんが話してないことをボクの口からはなんとも。って、あれ。意外とボクの方がユウちゃんのこと知ってたりして?」
燐は、俺の知らない夕烏を、知っている。
……そう思うと
腹の中に黒い感情が渦巻くのがわかった。