総長さんが甘やかしてくる①(※イラストあり)
「念の為、あの子の捜索願いが出されていないか調べておいてやろうか。ただし身元は本人から教えてもらうことになるが」
「……いや。あいつが心の整理できるまで、なにも聞いてやらないでおこうと思う」
「家出少女を雇用するってことは雇い主にもリスクが生じるが。それを承知であの子を受け入れてくれるとこが見つかったとなると。……大丈夫なのかよ、その店」
「職場に関してはなにも心配ない。夕烏には恩を仇で返すような真似だけはさせない。よく言ってきかせる」
「……そうか」
幻は、あの子との出会いで変わっちまった。
まるで別人のように。
だけど根っこの部分はちっとも変わっていない。
世話になる人間に対する礼儀。
仲間への信頼。
そういったもんは、今も幻の中にたしかに存在している。
「夕烏に伝えておいてくれ。今夜はゆっくり休めと」
「……帰んのか?」
「明日、仕事が終わったら迎えに来る。それから服や靴――色んなもん買いに連れてってやるつもりだ」
ってことは、明日も幻は走りには出ないかもしれないな。
「お休みくらい幻から言ってやれば」
「やめておく」
「……どうして?」
「あいつの顔見ると別れるのが惜しくなる」