総長さんが甘やかしてくる①(※イラストあり)
「そ、そうか。よくわからないが。込み入ったことを聞いて悪かったな」
「いえ……」
「…………」
――間がもたん……。
燐や幻は、この未知なる生物とどんな話をして繋いだんだ!?
これから毎日、顔を合わせることになる。
まあ昼間は学校で夜は走りに行くから時間にすれば短いだろうが。
「……数Ⅲ、ですか?」
横から覗き込んでくる。
「あ、ああ」
この距離感。
幻がいたら殺気を感じるに違いない。
「三年生は勉強難しそうですね」
「まあまあだな」
君は一年生だったんだろう?
どうして学校に行かない。
【高校生、でした】
辞めたということなのか?
次々と疑問は浮かんだ。
そもそもに、燐とどんな出会い方をしたかも詳しいことは知らないわけで。
知りたいことなら山ほどあった。
余計なことを聞いてしまう前に話題を変えるか。
「そういえば、君の職場が決まったそうだ」
「え、もう……!?」
「詳しいことは明日。というか、日付は今日だが。幻から聞け」
「それって、燐さんが見つけてくれたんですよね?」
「おそらくはな」
燐はこの子の荷物を持ってきただけじゃなく、それを幻に伝えにきたんだ。
きっと俺が風呂に案内してる間にさっさと伝えちまったんだろう。
……なにか裏がありそうな職場だが。
まあ、幻の様子から危ない仕事はまずさせないだろう。
「あ。ドライヤー使うか?」
少女の長い髪から、水滴が滴り落ちる。
「あ、はい……できれば。でも自然乾燥でも全然平気です」
「気を使わなくていい。来い」
ドライヤーの場所を教えてやると、ありがとうと礼を言われた。
そりゃあ俺は君の世話をしているが。
……誰かから、こんなにまっすぐに感謝の気持ちを向けられたのは久々だな。
そのとき俺は、幻がこの子に魅了される意味がなんとなくだが理解できた気がした。
ただし。
「あつっ!」
「おい、気をつけろ」
(女子っていうよりは。やっぱり妹キャラだよな)
この子を可愛がる意味はなんとなくわかっても、恋や愛だに繋がる意味がわかりそうにもなく。
俺を見上げ首をかしげる彼女――ユウに、きっと俺は、はやくも兄心みたいなものを抱き始めていたのだと思う。
「……久しぶりでした」
「あ?」
「あたたかいお風呂で身体の芯までぬくもったのは」