イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
長い指をのばしてルースは、つい、とアディの顎をすくった。端正な顔が目の前に近づいてアディは、息をのむ。妖しく細められた目が、とてつもなく色っぽい。

「あなたは、自分の事では決して怒らなかったのに、殿下のためには怒ってくれるのですね」

「だって、それはルースが……!」

「やはりあなたはあのぼんくらにはもったいない。どうです? 私のものになりませんか?」

 言いながらルースは、さらに顔を近づけてきた。あわててアディはその手をはずしてあとずさる。だがすぐに背中が壁についてしまった。そこでアディは、思い切り首を振る。

「だだだだだめです! なりません!」

「何故です? 私の方がずっと、いい男ですよ?」

 とん、とルースが片手を壁についた。アディの肩の、すぐ、横に。

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