イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
小さい頃からこっそり伯爵家を抜け出して外で遊んでいたアディは、いつしか街の子供達と仲良くなっていった。その子たちに誘われて、身分を隠して街の教会にも顔を出し、そこで幾人もの友人を得ていた。
 アディが伯爵令嬢だとは、今も友人たちは知らないだろう。喧嘩をしたり内緒話をしたりいろいろな相談をしたり……噂話ばかりの社交界よりよほど市井の暮らしの方が、アディにとっては楽しかった。

 その中でもクレムは、口げんかばかりしていたが特に仲のいい友人だった。クレムはクレムで、子爵の息子という彼の立場に全く頓着しないアディが珍しかったらしい。はたから見れば激しい口喧嘩とも覚える彼との掛け合いは、お互いが楽しんでやっていた。

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