イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
「ちょっとくらいいいじゃん。僕、昼まではもう何の予定もないし。アディと二人だけなんでしょ? やらしいなあ。何の勉強してたの? 人生勉強? それとも恋愛について?」

「どれも違います」

「ああ、オリベスラ語ね」

 アディの目の前にあった本をペラペラとめくりながら、フィルが言った。行儀悪く机に腰掛けたフィルを、アディは見上げる。

「フィルもわかるの?」

「女性ならともかく、この国の男ならたいていわかるんじゃない? 僕が手とり足取り教えてあげようか? ルースよりきっと優しいよ?」

 言いながらアディの手を握ったフィルの手を、ルースがばしりと叩き落とす。

「お、か、え、り、く、だ、さ、い」

 低い声に、アディの方がびくりと肩をすくめた。だが、フィルは平然としたものだ。
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