イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
意地悪な言葉も、守ろうとしてくれた硬い腕も、覚えさせられた彼の匂いも。

 そのすべてを愛しいと感じた。おそらくそれらをすべてひっくるめたものが、誰かを恋うる気持ちなのだろう。

 だが、自覚したところで今さらどうにもならない。

 アディの頬を伝う涙を、ルースはそっと指でぬぐう。

「私がレッスンをしたのです。あなたは、立派な王太子妃になれますよ」

「こんな時ばかり……優しいことを……」

「私はいつでも優しいですよ? ですから、必要なことは全てお教えしたつもりです」

「こんな気持ちまで教えてなんて、頼んでおりません……!」

 あくまで気の強いアディに、ルースは、ふ、と笑った。
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