イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
「お疲れではございませんか、奥様」

 次々に続く挨拶に対応するアディを気遣ったスーキーが、人波が切れたのを見計らってそっと声をかけてきた。

 アディが伯爵令嬢であったときには公の場には姿を出せなかったスーキーだったが、今のアディは王太子妃だ。侍女としてその身の周りの世話をするために、このようなパーティーでもすぐそばに控えるようになっていた。

「大丈夫よ、スーキー」

「アディはよくやっている」

 そっと腰を引いて、テオがアディの髪に口づける。アディはあわてて離れようとするが、テオは引き寄せた腰をがっちりと抱きしめて離さない。周りにはわからない程度に、アディが柳眉をひそめた。


「テオ、人前ですよ」
< 285 / 302 >

この作品をシェア

pagetop