イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
「お嬢様!」

 馬車の中からかけられたスーキーの声に、はっとアディは我に返る。

「申し訳ありません。少し、めまいが……」

 抱き留めてくれた執事に言って、アディはちゃんと立ち直す。じっとしていて足がしびれた、などと令嬢らしくない真実は口に出せない。

「長旅でお疲れなのでしょう。僭越ながら、どうぞおつかまりください」

 いたわるように優しい声で言ってその執事は、アディの手をとったまま、支えるようにして王宮へと向かった。ふと気づくと、その様子を見る女官やメイドたちの目が、一様に熱く潤んでいる。

 あらためてアディは、自分を支えてくれている執事を見上げた。

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