イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
令嬢らしく、令嬢らしく、と心の中で呪文を唱えながらアディは、普段なら数歩で駆け抜ける距離をしずしずと優雅に歩を進めていく。

 ほっそりとした体に、淡い新緑色のドレス。美しく髪を結い上げたアディは、楚々とした佇まいをくずさずうつむき加減で歩いていく。凛とした雰囲気の中にも少女特有のどこか儚げな空気が、アディを包み込んでいた。

 通り過ぎた後に可憐な花の香りを感じて、そこにいた使用人たちは感嘆のため息をもらす。

 アディは、自分を彼らに高貴な伯爵令嬢として印象付けることに成功したようだ。

 やろうと思えば、アディは完璧な淑女を演じることもできた。

 無作法だから今までパーティーなどに出かけなかったわけではない。男の品定めとゴシップにしか興味のない貴族たちの話が、アディは好きになれなかっただけだ。
< 51 / 302 >

この作品をシェア

pagetop