イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
くす、と頭の上で笑い声が聞こえた気がして、アディは扇の陰からちらりと執事をうかがう。

 だが、前を向いた執事は特に表情を変えるでもなく、淡々とエスコートをしているだけだった。

「あの、もう大丈夫ですから……」

 自分の手をとる執事に、アディは囁くように言った。

「ですが、まだ足元がふらついておられますよ」

(そうかしら)

 自分では、しっかりと歩いているつもりだった。

 すると、執事がそっとアディの耳元に口を寄せた。

「これだけの衆人環視のなかで、無様に転びたくはないでしょう? 足のしびれはとれましたか?」
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