イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
廊下を歩きながら、ルースがため息をつくのが聞こえた。

「アデライード様」

「はい」

「私は、一刻後、と申しませんでしたか。約束を守ることは王太子妃以前に人として最低限のマナーです。今後ぜひお気をつけください」

 確かに彼の言う通りだ。時間に気づかなかったことに、アディは心から反省した。もしアディがこの場に一人だったら、ドレスの裾をからげて思い切り廊下を走っていたことだろう。

「申し訳ありません。つい、侍女と話し込んでしまいまして……」

「いい訳は結構です」

 説明をしようとしたアディの言葉を、ルースはぴしゃりと遮った。

「できるかできないか。それだけで結構です」

「でも……」
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