イジワル執事と王太子は伯爵令嬢を惑わせる
「それでは、もう一度最初から始めましょう」

 なんの書物もなく、ルースはキリリシア王国の建国からの歴史を述べていく。その詳細さに、アディは再び感心した。最初はいらだった様子だったエレオノーラも、次第に真剣な表情に変わって講義に聞き入る。エレオノーラの知識もすごいと思ったが、ルースのそれは彼女をはるかに凌駕することがその言葉の端々から感じ取ることができた。

「では、今日はここまでにしましょう」

 そうして初日の講義が終わる頃には、とっぷりと外は暗くなっていた。

  ☆

「うええ……これ、ぜんぶ覚えるの?」

 部屋に戻ったアディの手には、本日の『課題』なる書物が握られていた。次の講義の時間までにすべて記憶しなければいけない。
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