ホットホットドリンク
残り五、六段くらいの位置だった。多大な荷物で足元が見えなかったのだ。

足元がなくなった感覚と、心臓が宙に浮くような感覚、それらの一瞬が過ぎて、落ちるだけだと目を瞑ることもできなかった。

しかし沙羅の体は床に叩きつけられる前に別の衝撃で止まった。

手からこぼれ落ちた書類やダンボールが音をたてて階段を転がっていくのを、誰かの肩越しに見た。

心臓がうるさい。落ちそうになったからか。

背中に誰かの手が回っているのが分かる。女性のものではなく──男性の。

足元がおぼつかない沙羅のためにだろう、その人はゆっくりと身を離した。

その彼が、中西だったのである。
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