ホットホットドリンク
「南野!」
ぼんやりしていたら名を呼ばれて、腕を掴まれた。
「えっ……浦田……?」
「ちょっと、こっち来い」
そのまま腕を引かれて、キャンパスの中を移動する。
人が少ない棟で、誰ともすれ違うことなく休憩スペースまで来れて、休憩スペースにも人はいなかった。
「座れ」
言いつつ、浦田は沙羅の肩を押さえつけて座らせた。
「飲み物おごる。なにがいい?」
「……カフェオレ……」
なにが起こっているのか、よく分からないままに返事をする。
カフェオレ。今の私みたい。
小銭を入れる音、ピッという無機質な音、ガタンという音。
ペットボトルに入った温かいカフェオレを、浦田は沙羅に握らせた。
「……ありがと……」
「よし。そんで、お前は泣け」
「…………はい?」
「失恋したらとりあえず、泣いとけ」
「……まだ、失恋とは決まっていないよ……」
だって、中西くんが本当にその子のことを好きなのか、分からない。
なにより、私が恋をしていたのかどうか、分からない。
失う恋がなかったら、そもそも失恋にはならない。
「お前は、中西のことが好きだったろ」
「……なんで分かるの……?」
心の底から不思議に思った。
自分ですら分からないのに。
「俺がお前のこと好きだからだよ」
「…………へ?」
「好きなやつのことは、自然と目が追うだろ。そしたらそいつの視線も分かるだろ。お前、気が抜けてるようなときっていつでも中西見てたもん」
「うそ、そんなだった?」
「そんなだった」
にやり、というように、浦田は笑う。
顔色一つ変わらない、いつもと同じように見える。
でもきっとそうじゃない。
「だからさ、泣いとけよ。失恋したら泣く、これ基本。お前は楽になるし、ついでに泣いてるお前を俺は慰められるし、一石二鳥」
「……私を慰めても、私が浦田のこと好きになるわけじゃないよ」
「そりゃそうだ」
浦田はおどけてみせる。その様子に沙羅は少し笑って、笑った拍子に涙が一粒目尻から零れた。
「……あれ」
びっくりした。頬を涙が伝っている。
追いかけるように、ぽろぽろと涙は零れ続けた。
……泣いている。
「……そっか。私、中西くんのこと、好きだったのか……」
そして、もう手遅れなのだ。
「よしよし。辛いな」
浦田は人差し指で沙羅の涙を一粒だけ掬うようにして、隣の椅子に座った。
「……ねえ、浦田」
「ん?」
「慰めてくれたって、好きにはならないって言ったけど」
「お。撤回する?」
「撤回はしないけど。そんなすぐ、他の人好きになれないもん」
「そーですかい」
「そーです。でもね、今、隣にいるのが浦田で良かったかもしれない」
「…………」
「私に似てる、浦田で良かったかもしれない……」
「……南野」
鼻をすすりながら横目で浦田を見た。
椅子の背もたれに思いっきりもたれ、右腕で顔を覆っている。
「俺、今、すごい複雑な気分だぜ」
「ふうん?」
「いつか話すよ。聞いてくれ」
「分かった。いつかね」
「おう」
ぽろぽろと涙を零す彼女と、顔を覆って動かない彼。
二人の関係は曖昧で、中途半端で────でも、穏やかで、悪くなかった。
ぼんやりしていたら名を呼ばれて、腕を掴まれた。
「えっ……浦田……?」
「ちょっと、こっち来い」
そのまま腕を引かれて、キャンパスの中を移動する。
人が少ない棟で、誰ともすれ違うことなく休憩スペースまで来れて、休憩スペースにも人はいなかった。
「座れ」
言いつつ、浦田は沙羅の肩を押さえつけて座らせた。
「飲み物おごる。なにがいい?」
「……カフェオレ……」
なにが起こっているのか、よく分からないままに返事をする。
カフェオレ。今の私みたい。
小銭を入れる音、ピッという無機質な音、ガタンという音。
ペットボトルに入った温かいカフェオレを、浦田は沙羅に握らせた。
「……ありがと……」
「よし。そんで、お前は泣け」
「…………はい?」
「失恋したらとりあえず、泣いとけ」
「……まだ、失恋とは決まっていないよ……」
だって、中西くんが本当にその子のことを好きなのか、分からない。
なにより、私が恋をしていたのかどうか、分からない。
失う恋がなかったら、そもそも失恋にはならない。
「お前は、中西のことが好きだったろ」
「……なんで分かるの……?」
心の底から不思議に思った。
自分ですら分からないのに。
「俺がお前のこと好きだからだよ」
「…………へ?」
「好きなやつのことは、自然と目が追うだろ。そしたらそいつの視線も分かるだろ。お前、気が抜けてるようなときっていつでも中西見てたもん」
「うそ、そんなだった?」
「そんなだった」
にやり、というように、浦田は笑う。
顔色一つ変わらない、いつもと同じように見える。
でもきっとそうじゃない。
「だからさ、泣いとけよ。失恋したら泣く、これ基本。お前は楽になるし、ついでに泣いてるお前を俺は慰められるし、一石二鳥」
「……私を慰めても、私が浦田のこと好きになるわけじゃないよ」
「そりゃそうだ」
浦田はおどけてみせる。その様子に沙羅は少し笑って、笑った拍子に涙が一粒目尻から零れた。
「……あれ」
びっくりした。頬を涙が伝っている。
追いかけるように、ぽろぽろと涙は零れ続けた。
……泣いている。
「……そっか。私、中西くんのこと、好きだったのか……」
そして、もう手遅れなのだ。
「よしよし。辛いな」
浦田は人差し指で沙羅の涙を一粒だけ掬うようにして、隣の椅子に座った。
「……ねえ、浦田」
「ん?」
「慰めてくれたって、好きにはならないって言ったけど」
「お。撤回する?」
「撤回はしないけど。そんなすぐ、他の人好きになれないもん」
「そーですかい」
「そーです。でもね、今、隣にいるのが浦田で良かったかもしれない」
「…………」
「私に似てる、浦田で良かったかもしれない……」
「……南野」
鼻をすすりながら横目で浦田を見た。
椅子の背もたれに思いっきりもたれ、右腕で顔を覆っている。
「俺、今、すごい複雑な気分だぜ」
「ふうん?」
「いつか話すよ。聞いてくれ」
「分かった。いつかね」
「おう」
ぽろぽろと涙を零す彼女と、顔を覆って動かない彼。
二人の関係は曖昧で、中途半端で────でも、穏やかで、悪くなかった。