ホットホットドリンク
case.Cocoa
ホームルームが終わったばかりでざわついている教室を、浦田翔はさっさと抜け出した。

目当ては一階上の一年生の教室である。

階段ですれ違う一年生たちは、一学年上の翔を見て、にやにやと分かったような顔で笑う。

「奈子ー。一緒に帰ろー」

「ふぁっ、翔先輩!?」

ガラッと扉を開けて彼女の名前を呼ばわると、なんと目の前にいるではないか。

ちょうど教室を出ようとしていたのだろう、中途半端に手が伸びている。

驚いた顔で変な声を上げた奈子が可愛すぎる。

「うわー奈子って可愛いなあ」

「にゃっ……なにをいうんですか」

噛んだ。可愛い。

「照れてるー可愛いー」

「せんぱい、ほんと、やめて」

奈子は肩にかけた鞄の持ち手をぎゅーと握りしめている。

頬も耳も真っ赤にして、翔から顔を背けている。

クラスメイトの視線が気になるのか、翔を押しのけてそそくさと教室を出る。

全てが可愛い。

「やっみなさん。今日も俺の奈子をどうも。めっちゃ可愛いけど俺のなんで男子諸君はちょっかいを出さないように……」

「しょうせんぱいなに恥ずかしいこと言ってるんですか」

真っ赤になりながら奈子は翔の腕を叩く。

全然痛くない。

「くっそ可愛いなあどうなってんだろ」

「せんぱいの頭の方こそどうなってるの」

ぷいっと顔を背けて、奈子は早足で歩き始めてしまった。

とはいえ翔からしたら、ちっとも早くはないのだが。

でも奈子を怒らせるのはまずい。

「やべー、じゃーね諸君」

ちゃっと奈子のクラスメイトに手を振って、翔は奈子を追いかけた。
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