溺愛誓約〜意地悪なカレの愛し方〜
「でも、幸せって顔じゃないだろ」

「え? そんなこと……」

「付き合ったばかりとは言え、恋人の表情の変化に気づけないほど鈍くないつもりなんだが」


明るく振る舞ったつもりだったのに、穂積課長の視線は私の心の中を見透かすように真っ直ぐで。
私を見据える瞳を前にして、繕った笑顔が簡単に剥がれてしまう。


「なにかあるなら、ちゃんと聞く。だから、そんな泣きそうな顔をするな」

「泣きそうな顔なんてしてません」

「そうか? 俺には、そう見えたんだが」


だとしたら、この場においては課長の観察眼はあてにならない。
だって、私は泣きそうなわけじゃないし、涙が出る気もしていないから。


だけど、穂積課長がどうして私なんかにこんな風に優しくしてくれるのかがわからなくて。
そういう疑問から生まれた腑に落ちない気持ちが、心のどこかで不安にも似た感情を燻らせているのかもしれない。


そんな風にひとりでグルグルと悩んでいる私に向けられていたのは、さっきも見せてくれた柔らかい顔つきだった。

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