溺愛誓約〜意地悪なカレの愛し方〜【コミカライズ配信中】
「ねぇ、お腹空かない?」

「えっと……」

「私、今日は全然食べれなくて。駅の裏にできたバル、行ってみない? ラクレットチーズが食べられるんだって!」


明るく笑う多恵は、私を心配してくれているのがわかる。
とてもありがたいし、なによりも彼女の気持ちが嬉しかったけれど、私は首を横に振った。


「ごめんね、今日は帰るよ」

「そっか」


多恵と過ごせば、きっと気晴らしになる。
優しい彼女は、私の話をじっくり聞いて、親身に励ましてくれるに違いない。


だけど、今は多恵の優しさを受けるよりも、穂積課長のことが気になって仕方がなかった。
夕方、社外に出た課長は、結局この時間になっても戻ってこなかった。


穂積課長とは、今回のことをあまり話せていないままだし、きちんと面と向かって謝罪とお礼を言いたい。
今夜会える確証はまったくないけれど、それでもせめて電話くらいはしたかった。


「じゃあ、また今度行こうね」

「せっかく誘ってくれたのにごめんね」

「気にしなくていいよ。二宮も行きたがってたし、また三人で飲まない?」

「うん、そうだね」


その時は、この一件のお礼にふたりにご馳走しよう。
密かにそう決めて、多恵とは駅で別れた。

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