溺愛誓約〜意地悪なカレの愛し方〜【コミカライズ配信中】
「失礼しますっ……!」

「え?」


思わず、えいっ! と口に出してしまいそうな勢いで、両手を伸ばして穂積課長に抱き着いた。
そうしなければ、直前で怯んでしまいそうだったから。


緊張のせいで力を入れ過ぎた両手を広い背中に回して、自分よりも大きな体をぎゅっと抱きしめる。
そのぎこちなさに羞恥が膨らんだけれど、課長の胸元に自分の顔を隠すようにした。


しん、と水を打ったように室内が静まり返る。
少し経っても、穂積課長はなぜか無反応のままだった。


緊張でいっぱいだった私の鼓動が、どんどん高鳴っていく。
だけど、どうすればいいのかわからなくて、震えそうな手で課長に抱き着いていた。


「あの……課長?」


先に静寂に耐え切れなくなったのは、私の方だった。
きっと、穂積課長に抱き着いてから一分も経っていなかったはずだけれど、ずっとこのままでいるのも、沈黙の中で大きくなり過ぎた心音を課長に聞かれてしまうのも恥ずかしかった。


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