溺愛誓約〜意地悪なカレの愛し方〜【コミカライズ配信中】
「よくできました」


ふと見せられたのは、会社で見る〝穂積課長〟の顔。
唐突に現れた上司の表情に困惑を感じた直後、クスリと笑われてしまった。


またからかわれたんだ、と気づく。
こんな甘やかな雰囲気の中、突然オンの時の顔を見せるなんて卑怯だ、と思った。


「莉緒は、やっぱり素直だな」


だけど、穂積課長があまりにも楽しそうに瞳を緩めているせいで、抗議の言葉はひとつも出てこない。
それどころか、自分自身に向けられている無邪気な顔に、瞳も心も捕らわれてしまっていた。


このままじゃ悔しい。
私ばかり振り回されているけれど、私だって少しくらい課長を翻弄したい。


そんな気持ちから、穂積課長を抱きしめた時よりもずっとたくさんの勇気を出して、弧を描いている唇を奪った。
それはきっと、キスとは呼べないほどにほんの一瞬のささやかなくちづけで、課長から見ればまるで子ども騙しのような行為だったに違いない。

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