溺愛誓約〜意地悪なカレの愛し方〜【コミカライズ配信中】
「それに、もう過ぎたことだ。大変な時がなかったわけじゃないが、母の経過は良好だし、仕事にも差し支えはなかったから、実家に戻ってよかったと思ってるよ」

「お母様も、きっと心強かったと思います」

「そうだといいけど」


穂積課長がお母様の看病をしていた時、私は別の部署にいた。
その頃の課長のことはよく知らないからこそ、こうして話してもらえたことが嬉しかった。


「他になにか訊きたいことはあるか?」

「うーん……あっ!」

「なんだ?」

「私がサンプルの発注ミスをして研究所に行った時、松村部長が穂積課長に対して『借りがある』っておっしゃってましたよね? あれって、どういう意味ですか?」

「あぁ、あれか」


訊いてもいいのかわからなかったけれど、穂積課長の顔を見る限りでは内緒というわけでもなさそうだった。
課長は少し考えるような表情を見せたあと、「あまり話すことでもないんだけど」と前置きをしたあとで、落ち着いた口調で続けた。

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