溺愛誓約〜意地悪なカレの愛し方〜【コミカライズ配信中】
こんなことなら、資料室に入るときにしっかりと音を立てていればよかった。
今さら出ていくことも立ち去ることもできなくて、このあとどうすればいいのかもわからない。


「これからのことなんて、田原には関係ないだろ」


ふと抱いたのは、違和感。
それは、男性が口にした女性の名前に感じたのかと思ったけれど、直後にそうじゃないと気づく。


「関係ないのが嫌だから、こうして話してるんじゃない。あなたは今後、うちの会社を背負うかもしれないのよ? 恋人や結婚相手だって、プライベートだけじゃなくて仕事でも支えてくれる相手の方がいいでしょう? 私は、あなたと別れてからずっと、秘書としてキャリアを積んできた。だから――」

「いい加減にしてくれ。こんな話に付き合ってる暇はないし、俺はやり直す気もない。連絡も、これ以上してくるな」

「智明……っ!」


グラリ、視界が揺れる。
自分が一瞬どうやって立っているのかわからなくなったときには、体が冷たい床に吸い寄せられていた。

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