溺愛誓約〜意地悪なカレの愛し方〜【コミカライズ配信中】
「母は芯が強い人だから、女手ひとつでも不自由なく育ててくれた。俺が二十歳になったときに知ったんだけど、慰謝料や養育費には一切手をつけてなくて、振込先になってた通帳を丸ごと俺に渡してきたんだ」


静かに話されたことに、私は目を丸くする。
無言で驚く私を見て、「俺もこれを知ったときはそんな顔になったよ」とおかしそうに笑った。


「もともと、母は大手企業で秘書をしてたときに父に見初められたから、仕事はできる人だったのかもしれないが、結婚後は専業主婦だったから数年のブランクはあったし、俺が想像してるよりもずっと大変だったはずなんだ。でも、母のつらそうな顔は一度も見たことがない。それから、父を悪く言うこともなかった」


穂積課長からお母様の話を聞いたとき、前向きでパワフルな人だという印象を受けた。
だけど、この話はそんなどころじゃないほどの強さを感じさせ、会ったこともない課長のお母様に尊敬の念すら抱いた。


穂積課長も、お母様のことを尊敬しているんだろう。
課長の顔は、さっきと違って柔らかい雰囲気を纏っている。

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