溺愛誓約〜意地悪なカレの愛し方〜【コミカライズ配信中】
不意に足音が近づいてきたかと思うと、元康とともに男性が現れた。
元康は「料理は適当にお持ちしますね」と言い、俺に小さな笑みを残してから立ち去った。


「待たせたな」

「いえ、私も来たばかりですよ、社長」

「プライベートでは社長はやめろ」

「社長は社長ですから」


にっこりと営業スマイルで奥の席に促した俺に、春日野社長がため息をつく。
程なくして、元康が焼酎とともに刺身や肉豆腐も持ってくると、「ごゆっくりどうぞ」と丁寧な一礼をして再び調理場に戻っていった。


「仕事はどうだ」

「おかげさまで、忙しいですよ。突然の昇進ですし、部下に引き継ぐことも山ほどあって、得意先の挨拶回りにも追われてます」


漆黒の髪を固めた社長は、還暦を過ぎているとは思えないほど若々しい。
皺こそあるものの、切れ長の瞳は鋭い光を宿し、肌艶も姿勢もよく、体躯も均整が取れている。


父親として尊敬できるところはないものの、女性関係で母が苦労させられたのも納得できるくらいの見た目ではある。
もっとも、もう長い間独身だと聞いているが、どうせ遊ぶ相手くらいはいただろう。

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