溺愛誓約〜意地悪なカレの愛し方〜【コミカライズ配信中】
その帰り道、約二十年振りに口にした『父さん』という言葉が、俺の心を落ち着かなくさせていた。
口の中は砂を噛んだように不快だったが、思っていたような嫌悪感を抱くことはなく、嫌味のひとつも言えたことで胸が空いたような気もする。


「おかえりなさい!」


それはきっと、莉緒が傍にいてくれるおかげだろう。
そう思いながら家の鍵を開けようとした刹那、目の前のドアが開いて彼女が飛び出してきた。


「莉緒……!」

「ふふっ、驚きました? 早く会いたくて、足音が聞こえるたびに急いで玄関まで来てたんですよ。やっと智明さんだった!」


カードキーを顔の前で見せる莉緒は、「合鍵もようやく使っちゃいました」と面映ゆそうに笑っている。
そのはにかむ笑顔が可愛くて、俺は手を伸ばして彼女の体を抱きすくめた。


「ただいま、莉緒」

「おかえりなさい、智明さん」


噛み締めるように紡いだ言葉に、柔らかい声が返ってくる。
穏やかで温かいひとときに心は癒され、思わぬサプライズに疲労感が一気に吹き飛んだ。

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