溺愛誓約〜意地悪なカレの愛し方〜【コミカライズ配信中】
「なに考えてるのっ‼︎」


うっかり指先で唇に触れてしまっていたことに気づいてハッとし、慌ててその左手をブンブンと振った。
独り言が増えても自分自身に全力で突っ込んだのはたぶん初めてのことで、このままだとどんどん昨夜の記憶に翻弄されてしまうような気がした。


電話を切ってから既に十五分が経っていて、早く準備しなければ約束の時間に間に合わないとわかっているのに、ベッドに腰掛けたまま足が動かない。


どうしよう、という言葉が頭の中でグルグル回っている。


課長はどういうつもりなんだろう……。遊びでこういうことする人じゃないよね? 会社ではすごく真面目だし、みんなに優しいし……。


冗談や遊びだとは思えないけれど、昨夜の出来事はどれも信じ難い。


穂積課長は誰に対しても優しいのに特別親しい同僚がいる雰囲気はないから、余計に自分の身に起こった状況を理解することができなかったけれど……。さすがに〝行かない〟という選択肢を選ぶ勇気はなくて、ソロソロと重い腰を上げた。

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