極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
「龍司さん」


私の唇にキスを落とそうとしていた篠原を制するように呼べば、彼の動きがピタリと止まった。


ぶっきらぼうで、やっぱり可愛いげなんて欠片もないけれど──。

「愛してる」

篠原を真っ直ぐ見つめながら自分に与えられたばかりの言葉を同じように紡ぎ、私から彼の唇を奪った。


私にしては大胆な言動にどうやら驚いたらしい篠原は、それを表情に出して静止したまま私を見つめている。


「雛子、今……」


珍しくポカンとしている彼がなんだか可愛くて、もう一度そっと唇を奪った。
ただ唇を重ねるだけのキスなのに、心が幸せで満たされていく。


「……おい」


らしくないことを考えていると、篠原の低い声が響いた。


「中学生レベルのキスで、俺に勝ち誇ったような顔をするな」


“そのキス”に動けなくなったくせに、と言いたくなったのを我慢する。


「お前のせいで萎えたし、キスから仕切り直すか」


すると、また責任転嫁をした彼が独り言のように零し、楽しげにニヤリと笑った。


「んっ……!」


唇を塞がれたのはその直後で、あっという間に舌を奪われた。
ずっと私のなかに埋められたままだった篠原自身は、たしかに彼の言葉通り硬さが僅かに和らいでいる。


だけど──。

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