極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜

Chocolat,01 脇役にしかなれない女

昨日は、本当に最悪な一日だった。


出勤前にまだ買ったばかりのパンプスのヒールが折れて、仕事に必要な手帳を家に忘れてしまって……。
午前中に担当している小説家の家に原稿を取りに行ったら、締切から一週間も過ぎているにも拘わらず出来上がっていなくて、夕方まで粘ったのに結局は受け取ることができなかった。


オフィスに戻ったらそのことで上司に散々嫌味を言われて、溜まりに溜まっていた雑用まで押しつけられた。


極めつけは、冷たい雨に降られた夜。
一年半近く付き合っていた彼氏の家に行ったら知らない女がいて、その場であっさりと別れを告げられてしまったのだ。


“とことんツイていない日”って、きっと昨日みたいな日のことを言うんだろう。


彼氏の家に行く途中、コンビニで買ったビニール傘も大して役には立たなくて……。土砂降りの雨の中、びしょ濡れで帰宅した。


ひとりぼっちの玄関で視界に入ってきたのは、朝ヒールが折れてしまった黒いパンプス。用済みのそれがなんだか自分と重なって、急激に虚しさが込み上げてきた。


だけど、心も体も疲れ果てていた私は、泣く気になんてなれなくて……。そういえば今朝のワイドショーで観た星座占いで最下位だった、なんてことを頭の片隅でぼんやりと考えていた。

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