極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
「だっ、誰のせいだと思ってるんですか⁉︎」


胸の奥に抱いた戸惑いを誤魔化すために精一杯叫べば、篠原が意味深な笑みを見せた。


「いつも眉間にシワ寄せてること? それとも……」


クッと笑った彼が、私の耳元に唇を寄せる。


「今、他人には見せられないような顔してること?」


耳を掠めた低い声と吐息に体がビクリと跳ね上がると、篠原がまた喉の奥で笑った。


おかしい……。
こんなの、おかしい……。


心底、そう思う。


それなのに──。

「……俺は好きだけどな、今の雛子(ひなこ)

名前を呼ばれて、不本意にもドキドキしてしまう。


「俺の手でお前が乱れてるってだけで、ゾクゾクするよ。それに、俺のせいじゃないと意味がないだろ」


見たこともないほど楽しそうな彼に、悔しさが込み上げてきた。だけど、また唇を塞がれて、それを口にすることはできない。


重なる唇が、漏れる吐息が、官能的な水の音が……。私の理性を、奪っていく。


篠原の綺麗な瞳が、甘さを孕んだ吐息が、激しいキスを与える唇が、悪戯な指先が……。私のなかを、暴いていく。


逃げられない。
もう、逃げられない。
彼の腕の中で、溶けていく。


ドロドロに、溶けていく──。

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