極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
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「……い、おい、塚本! つーかーもーとー!」
不機嫌な声にハッとすると、さっきまでパソコンのキーボードを叩いていた男が、その端正な表情に苛立ちを浮かべていた。
「……なんでしょう?」
「『なんでしょう?』じゃないだろ! さっきから、俺が何回呼んでると思ってるんだ! お前の耳には、耳栓でも入ってるのか?」
「すみません」
反射的に漏れそうになったため息を飲み込んで、事務的に謝罪の言葉を零す。
「コーヒーですか?」
それから、これ以上余計なことを言われないように続けて訊けば、男は眉をしかめたまま再びキーボードを叩き始めた。
彼は絶大な人気を誇る小説家、『篠原櫂』。
篠原の処女作である純愛物の作品が大きな賞を受け、あまりの人気振りに翌年には異例のスピードでドラマ化までされた。
当時、まだ二十歳だった私も例外なくその作品を読んで感銘を受け、次々と出版された彼の作品たちの虜になっていった。
そして、大学を卒業後に出版社に就職してから一ヶ月が経った頃、篠原の担当者だった先輩に連れられてここに来た時には、憧れの作家に会えた喜びで胸がいっぱいだった。
だけど……。
私が抱いていた憧れの像は、それから三ヶ月もしないうちに崩れてしまった──。
「……い、おい、塚本! つーかーもーとー!」
不機嫌な声にハッとすると、さっきまでパソコンのキーボードを叩いていた男が、その端正な表情に苛立ちを浮かべていた。
「……なんでしょう?」
「『なんでしょう?』じゃないだろ! さっきから、俺が何回呼んでると思ってるんだ! お前の耳には、耳栓でも入ってるのか?」
「すみません」
反射的に漏れそうになったため息を飲み込んで、事務的に謝罪の言葉を零す。
「コーヒーですか?」
それから、これ以上余計なことを言われないように続けて訊けば、男は眉をしかめたまま再びキーボードを叩き始めた。
彼は絶大な人気を誇る小説家、『篠原櫂』。
篠原の処女作である純愛物の作品が大きな賞を受け、あまりの人気振りに翌年には異例のスピードでドラマ化までされた。
当時、まだ二十歳だった私も例外なくその作品を読んで感銘を受け、次々と出版された彼の作品たちの虜になっていった。
そして、大学を卒業後に出版社に就職してから一ヶ月が経った頃、篠原の担当者だった先輩に連れられてここに来た時には、憧れの作家に会えた喜びで胸がいっぱいだった。
だけど……。
私が抱いていた憧れの像は、それから三ヶ月もしないうちに崩れてしまった──。