極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
「お前、もうちょっと楽しそうに食べられないのか? お前と飯食ってたら、葬式に参列してるみたいで気分が悪い」


篠原の視線から逃れるようにしていると、必ず嫌味を言われるから。


「……すみません。もともと、こんな感じなので」

「俺と一緒に飯食ってこんなに辛気臭い顔する女、お前だけだぞ」

「顔が辛気臭いのは生まれつきです」

「お前な、ちょっとくらい愛想良くしてみろ。編集長から聞いたけど、俺以外には愛想良くできるんだろ?」

「先生といると、笑う余裕なんてありません」


いつもと同じやり取りのあと、お互いにため息をついた。


わからない……。本当にわからない……。篠原は、なぜ私と食事を摂りたがるのだろう……。


食事は楽しく、とまではいかなくても、それなりにリラックスして摂りたいものである。だけど……この半年間の私たちの食事の風景と言えば、とにかく空気が悪いだけなのだ。


それでも、ふたり分の食事を用意させて一緒に食事をする篠原の気持ちが、私にはまったく理解できない。


以前、『先生はひとりで食事をするのが嫌なんですか?』と訊いてみたら、白い目で見られたことを思い出す。
それ以外の理由があると言うのなら、ぜひとも教えていただきたい。

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