極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
「ご馳走様でした」


今日も手を合わせて食事を終えた私を余所に、篠原は無言のままコーヒーを待っている。


雰囲気だけでそれを感じ取れるようになった私は、さながら彼専属のメイドのようだ。もっとも、どんなに給料が良くても丁重にお断りしたい職種だけれど……。


「先生、コーヒーです」

「あぁ」


カップに口をつけた篠原の横顔は相変わらず端正で、気を抜けば息を呑みそうになる。


彼は、ずるいのだ。
暴君そのもので、腹立たしい言動の数々に殴ってやりたくなることもあるのに、その綺麗な瞳で見つめられると調子を狂わされてしまう。


「そんな物欲しげな顔するな」

「なっ……!」


不意に私の方を見た篠原が、悪戯に瞳を緩めた。


「してませんっ……!」


慌てて反論をするものの、彼は私を見つめたまま喉の奥でクッと笑う。


対面式のキッチンが、恨めしい。


「来いよ」

「嫌ですっ‼︎」

「なんで?」

「なっ、なんでって……」


言葉に詰まる私に、篠原が意味深な視線を寄越してくる。


「……っ、なに考えているんですか!」


心臓がドクドクと血液を運ぶのを感じて咄嗟にそう叫べば、彼はフッと小さな笑みを零した。

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