極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
「いいんですか……?」


明日になれば書店に並ぶとは言え、あれほど見せてもらえなかったものを発売日よりも一日早く解禁されたことに、少しだけ戸惑う。
頷いた篠原はやっぱり意味深な笑みを浮かべていたけれど、私はその真意を探る余裕すらないほどの喜びを噛み締めた。


「ただし……」


そんな私を、彼が見据える。


篠原が発した言葉からなにか条件をつけられるのだと感じて、一瞬のうちに頭の中に無理難題が駆け巡り、思わず身構えてしまったけれど──。

「明日、絶対に感想を聞かせろ」

どこか機嫌が良さそうな彼から提示されたのは、そんな簡単なことだったのだ。


「……それだけでいいんですか?」

「あぁ。まぁ、お前にとっては難題になると思うけど」

「え?」

「そもそも、お前が最後まで読めるのかが問題だな」


篠原は小首を傾げた私を見て、試すように瞳を細めた。


「あの、先生……。私、これくらいの作品なら二時間もあれば読み切れますよ?」


眉を小さく寄せると、彼が喉の奥でクッと笑った。


「じゃあ、俺を満足させるような感想を期待してるよ」


なぜか楽しそうな篠原の心情を知らない私は、意味深な笑みを浮かべる彼の態度を不思議に思いながらも、心の中はやっぱり喜びでいっぱいだった。

< 50 / 134 >

この作品をシェア

pagetop