極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
そんな冒頭から始まった一ページ目を読んで、ほんの僅かな違和感を抱いた。“しっくりしない”というのが正しい表現なのかどうかは、よくわからない。


だけど、なぜ違和感に似た感覚を覚えたのだ。その理由はわからないけれど、ドキドキと高鳴っていた胸がさっきまでの興奮とは明らかに違う意味で騒ぎ出す。


読んではいけないような、そんな気がする。


それでも、あんなにも読みたくて堪らなかった一冊が目の前にある。
篠原の世界を見られるという誘惑にはやっぱり勝てなくて、ほんの少しだけ芽生えた戸惑いを押し退けながら次のページを捲った。


一字一句漏らさないように視線を走らせ、次々とページを捲っていく。
その度に、一ページ目を読んだ時から心の中で燻っていた戸惑いが、まるで水と栄養を与えられた植物のように育っていった。


そして──。

「嘘、でしょ……」

一章目を読み終えたあと、ほとんど無意識のうちにそう零していた。


「どうして……？」


驚きと戸惑いに包まれた私は、答えが返ってこないとわかっていながらもそんなことを口にしてしまう。


まだ一章分しか読めていないけれど、気のせいなんかじゃない。


【失恋ショコラ】のヒロインは、私なのだ……。

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