極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
情事を思わせる文章で幕を閉じた、物語。


視界に入ってくる表紙は、さっきと変わらないのに……。読み始める前とは打って変わって、私の心の中の大半を戸惑いが占めている。


ある意味、興奮に近いものを抱いて大きく鳴る心臓。
最初のひと口以降、一度も口をつけることができなかったコーヒー。


今まで何冊もの書籍を読了してきたけれど、こんなにも戸惑ったまま読後を迎えるのは初めてのこと。
【失恋ショコラ】を前に、ただただ呆然としているだけ。


しばらくして、とにかく頭の中を整理しようと手にしたマグカップはひんやりと冷たく、コーヒーはすっかり冷め切っていた。


【失恋ショコラ】は、ノンフィクションではない。
作中では、篠原と交わした会話もあれば、まったく思い当たる節のないやり取りもたくさんあった。


自分の性格を客観的に見る自信はないから、なんとも言えないけれど……。小説家の男には振り回されながらも社内では敏腕と言われているヒロインのように、私は仕事ができるわけじゃない。


なによりも、私と彼はこのふたりのように恋人にはなっていない。もちろん、今後も私たちがそんな関係になることはないだろう。


だって……篠原が私に対して恋愛感情を抱くなんて、どうしたって考えられないから。

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