極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
『ヒロインのモデルにしたい女がいるから』


この作品のプロットを受け取った時、篠原にそんな風に想われる女性を羨ましいと思った。誰なのかわからないその女性に、私はたしかに羨望の情を抱いていた。


だけど……その女性こそが私だったのだと知った今、そんな気持ちを抱いていた自分をバカだと思ってしまった。


ただただ、悔しい。


だって……私の人生最大の失態の夜を、篠原にネタにされてしまったのだから。
彼にとってのあの夜は、ただ作品を生み出すための時間でしかなかったのだ。


処女作から読み続けてきた篠原の作品を、初めて嫌いだと思った。
言葉にすれば呆気ないほどに短いけれど、【失恋ショコラ】は“嫌い”。


だけど……大嫌いとまで思えないのは、こんな気持ちになっても尚、彼の作品の虜だから。


篠原との情事を思い出しては居た堪れなくなり、それまでと変わらない振る舞いの彼に最初のうちは戸惑った。
それでもやっぱり、篠原櫂への尊敬の念は消えなくて、彼の作品が好きで好きで堪らなかった。


結果として、自分がただの作品の材料だったとわかった今は、虚しくて堪らないのに……。私はどうしたって、篠原櫂の世界が好きなのだ──。

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