極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
「そんなこと訊いてない」

「正直な感想を述べたつもりですけど」


深いため息を漏らした篠原が、私の瞳を真っ直ぐ見つめた。


「それは担当者としての言葉だろ。俺が欲しいのは、塚本雛子の感想なんだよ」

「……先生のおっしゃりたいことはよくわかりませんが、担当者としてだろうと私個人だろうと、私の感想だと思いますけど」

「おい、つまらない屁理屈を並べるなよ。真面目に答えろ」

「先生こそ、揚げ足を取らないでください。私は至って真剣に答えたつもりです」


私を見つめる彼の端正な顔が、今日は無性に腹立たしい。


体の奥底から沸々と込み上げてくるのは、怒りとは違う。それにとてもよく似た感情だとは思うけれど、私は怒ってなんかいないのだ。


だけど──。

「だったら、本音を言え」

絶対的な圧力をかけるような篠原に、私の中のなにかがプツリと切れた。


ひと晩中、頭の中から追い出せなかった、あの夜の情事。
私にとっては胸の奥に深く刻まれてしまうほどの出来事だったのに、彼にとっては小説のワンシーンに過ぎなかった。


ずっと考えて辿り着いた結論はどこか残酷さを孕んでいて、胸の奥をジワジワと抉り続けている。


あぁ、そっか……。

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