極上ショコラ〜恋愛小説家の密やかな盲愛〜
考えるよりも早く、長方形の箱を手に取った。


明らかに女性を意識したラッピングの中身は、きっとアクセサリー。簡単に予想できたそれを、篠原は誰に渡すのだろう。


ツキンと痛む、胸の奥。
言葉にしたくない感情の理由がわからないほど、もう子どもじゃない。


食事の支度を頼まれなくなったのは、この間のことが原因だったのではなく、恋人がいるからなんだろう。
なによりも、こんな物を渡すほどの大切な人がいる彼に、作品のネタにされてしまったのだ。


ムクムクと大きくなり続ける虚しさに唇を噛み締めた時、リビングの方とすぐ背後の方で立て続けにバンッと大きな音が鳴った。


「勝手に触るな」


焦りと苛立ちを顔に浮かべた篠原は、私からバッと箱を取り上げた。
彼が感情をあらわにするところを見るのが久しぶりだった私は、思わず言い訳を零すわけでもなく、その表情に見入ってしまっていた。


直後に落とされた、舌打ち。
それは、篠原が気を悪くしている証。


だけど、私だって、今は舌打ちをしてやりたいくらいだった。


「恋人へのクリスマスプレゼントですか。いいですね」


淡々と言葉を紡いだ声は冷たく、苛立ちを全面に押し出していた。


「……お前には関係ない」


言われなくてもわかっていることをご丁寧に教えられて、また胸の奥が痛んだ。

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